【2日目】第72回全国中学校理科教育研究会北海道大会【分科会】
○分科会
第3分科会・観察・実験に参加しました。以下内容をまとめます。
◆分科会主題「自らの学びを構想し、科学的に探究することができる観察・実験」
□視点① 自らの考えをもとに試行錯誤し、科学的に探究することができる観察・実験の在り方
□視点② 自然を多面的・総合的に捉えることができる観察・実験の工夫
(1)「生徒の思考を広げ、『学びの再構築』につながる観察・実験の工夫 ~『知識の再構築』につながる観察・実験~」
北海道ブロック 札幌市立明園中学校 芳賀大二郎
①研究の背景と目的
本研究は、北海道中学校理科教育研究会(道中理)が掲げる「学びの再構築」を背景としている。「学びの再構築」とは、知識と学びのプロセスを再構築し、授業での課題解決を振り返り、探究方法を更新していくことを指す。芳賀は、この考え方を踏まえ、生徒が自然と共生する理科教育を実現するために「知識の再構築」に焦点を当て、観察や実験を通してその要素を明らかにすることを目的とした。
②実践内容
ア:第2学年生命領域:食材に含まれる消化酵素の働きを調べる実験
パイナップル、生姜、大根、山芋など酵素を含む食材や、寒天、ゼラチン、牛脂などを教材として用いた。ある班はバナナの酵素作用を調べ、ゼラチンが変形した原因を確かめるため再実験を行い、課題解決のプロセスを自ら構想した。
イ:第2学年エネルギー領域:小麦粘土を用いて電気抵抗と合成抵抗の概念理解
長さや太さを自由に変えられる小麦粘土を使い、直列・並列回路の特徴を直感的に理解させた。生徒は長いほど抵抗が大きく、太いほど小さくなることを発見し、それが直列・並列回路の性質と対応していることに気付いた。
③成果
生徒が自らの興味や疑問に応じて教材や条件を変えることで、思考が広がり多様な学びが生まれることが確認できた。また、自らの考えを形にできる教材の活用により、難しい概念も実感を伴って理解できた。
④課題
「学びの再構築」を体系的に積み重ねる方法や、その評価方法の確立が今後の課題である。
(2)「日常生活から見いだした課題をもとに科学的に探究する観察・実験について」
東北ブロック 福島県相馬市立中村第一中学校 渡部兼介
①研究の背景と目的
福島県中学校教育研究会理科部会の研究主題「学びの変革」に基づき、個別最適化された学び、協働的な学び、探究的な学びを推進することを目的とした。渡部は、日常生活に潜む課題をもとに科学的探究につなげる観察・実験を通して、生徒の主体的な学びを促すことを目指した。
②実践内容
ア:身近な材料と簡易装置での気体発生
入浴剤や生レバー、ふくらし粉などを用い、ストックバッグとストローの簡易装置で気体を発生・収集した。気体の性質や用途を調べ、興味と疑問を深めた。
イ:減塩塩を使った再結晶
地域課題である高塩分摂取を導入に、減塩塩から塩化カリウムを分離する課題を設定。溶解度曲線を読み取り、試行錯誤を重ねた。
ウ:地域の特色を軸にした授業
地域の動植物を事前学習し、「ムシテックワールド」での観察や森林体験と結びつけた。
③成果
生徒は日常と理科のつながりに気付き、主体的な探究意欲を高めた。地域性を生かした活動が、知識を実体験と結びつける契機となった。
④課題
日常の課題を科学的探究に変換するプロセスの体系化が今後の課題である。
(3)「科学的に探究する力を育むための観察実験教材教具の紹介動画の作成」
近畿ブロック 滋賀県大津市立北大路中学校 池内伸圭
①研究の背景と目的
滋賀県中学校教育研究会理科部会(滋中理)の研究活動の一環として、科学的探究力を育成するための教材・教具の情報共有を目的とした。県内では教員の世代交代が進み、若手教員が授業改善のための教材情報を効率的に入手できる仕組みが求められていた。冊子配布や研修会では利用機会や参加人数に限界があり、動画共有による情報提供が有効と考えられた。
②実践内容
教材・教具の紹介動画をYouTube等に掲載する方法を採用した。動画作成では以下の点に留意した。
・サムネイルに学年・分野・キーワード・準備の手間を明記
・1動画1教材、長さ30秒~1分程度とし、詳細は概要欄に記載
・「サムネイル→手順1~3」の統一フォーマット
・iPad標準アプリ(iMovie、Keynote)を使用し制作負担を軽減
2025年2月時点で35本の動画を制作した。
③成果
研究授業の教材探しに活用され、「必要な教材かを一目で判断できる」との評価を得た。
④課題
動画の活用機会を増やすための周知、優れた実践の掘り起こし、制作負担の軽減が必要である。
(4)「観察・実験を通して、価値的興味を深めるアプローチの工夫」
中国・四国ブロック 広島県福山市立駅家中学校 井上大輔
①研究の背景と目的
理科において「面白い・好き」といった感情的興味だけでは深い探究につながりにくい。より質の高い「価値的興味」(知識獲得型・思考活性型・日常関連型)を育むことが重要である。2024年4月の調査で「理科は好き」66%に対し、「理科を深めたい」は45%と差が見られ、質的向上が課題となった。本研究は、価値的興味を深め、最終的に科学的探究力を育成することを目的とした。
②実践内容
価値的興味を高めるための条件として以下の4点を設定した。
・考えたくなる問い(現実性・重要性・ワクワク感)
・驚きと感動(意外性・発見)
・帰納的学習法(事例や実験から一般化)
・無我夢中になれる条件(明確な目標、適切な難易度、集中環境、迅速なフィードバック)
ア:中2化学「炭酸水素ナトリウムの分解」:ベーキングパウダーの発泡を手がかりに気体の正体を探究
イ:中1物理「光の反射・屈折」:ペッパーズゴースト現象を再現し驚きを演出
ウ:中2生物「感覚器官」:近視の原因を物理知識と関連づけて説明
エ:その他「レインボー試験管」や「なんでも還元団」などの活動も行った。
③成果
7月の調査で「理科を深めたい」が94%に上昇した。生徒の振り返りからも、自ら考え試行錯誤することや日常と理科のつながりに驚く記述が増加した。
④課題
価値的興味の向上が探究力に与える影響を継続的に検証する必要がある。
(5)「自分らしく理科を創造し、科学的に探究することができる観察・実験 ~単元計画と振り返りを往還する活動を通して~」
九州ブロック 福岡県教育庁京築教育事務所(在籍:行橋市立行橋中学校)古森亮太
①研究の背景と目的
「令和の日本型学校教育」では「個別最適な学び」と「協働的な学び」の実現が求められる。古森は、生徒に学習を委ねる中で「学習の空洞化」が課題と感じ、学びの文脈を持つ単元計画と振り返りの往還により、実生活に沿ったリアルな課題に挑む姿を「自分らしく理科を創造する姿」と定義し、その実現を目指した。
②実践内容
ア:1年物質のすがた:「海水に卵が浮くか」を課題に、濃度や溶解限界を探究
イ:2年気象:「卒業式(3月8日)の天気を予報する」という実生活課題に挑戦
ウ:3年化学変化とイオン:「ガルバーニの動物電気説は真か偽か」を検討
単元マップで全体像を可視化し、毎時間の振り返り(StudyLog)で学びを蓄積した。
③成果
生徒は見通しを持って学びに取り組み、積み重ねた知識を実生活課題に活用できた。
④課題
学習の空洞化を防ぎつつ、単元間での学びのつながりを強化する必要がある。
(6)「自立して探究する生徒の育成 ~科学的根拠に基づいたアーギュメントの効果に関わる研究~」
私立・国立等 北海道教育大学附属旭川中学校 林亮輔
①研究の背景と目的
生徒の多くは他者との協働が課題解決に役立つと認識しているが、仮説立案や結果分析といった理科の資質・能力獲得には結びついていない。そこで、科学的根拠に基づき論理的に表現できる生徒、すなわち他者と議論できる生徒の育成を目的とした。
②実践内容
探究の各場面で「何を主張するのか、証拠は何か、理由は何か」を問う口述アーギュメントを導入した。1年「身の回りの物質」では、プラスチックの密度と浮沈を調べ、得られた証拠を基にポリスチレンと結論を出し、さらに砂糖水と食塩水の層を作り、密度範囲を実証した。
③成果
実践後、「仮説を立てることが得意」とする生徒が増加し、否定的回答が減少した。アーギュメントを意識した指導は、科学的表現力の質を向上させ、他者に表現することへの肯定感を高める効果があることが分かった。
④課題
協働学習と理科の資質・能力獲得の関係をさらに明らかにし、効果的な育成方法を探る必要がある。
*本大会は、撮影、録音、録画が関係者以外の場面以外は不可ということだったため、記録があまり残っておりません。メモや大会誌を参考に文字起こしをしております。ニュアンスやイメージと違いがある場合は了承ください。
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